私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「クワイエットルームにようこそ」

2007-10-29 19:33:22 | 映画(か行)

2007年度作品。日本映画。
フリーライターの明日香はある日、目を覚ますと、精神病院内のクワイエットルームと呼ばれる白い部屋で、拘束されていた。荷物を届けに来た恋人によると、仕事に行き詰まり睡眠薬を過剰摂取したことが原因だと言う。しばらく閉鎖病棟で暮らすことになった明日香は、そこで奇妙な人たちと出会っていく。
監督は「恋の門」の松尾スズキ。
出演は内田有紀、宮藤官九郎 ら。


原作は特にどうとも思わなかったのだが、映画ではまた違う味が出ていたのが心に残った。
そう感じた最大の点はやはり前半部の笑いにあるだろう。小説でもノリのいい文体で、笑いを意識しているのがわかるが、映像で見ると、受けるインパクトが違ってくる。クドカンのテンションといい、映像でしか表現できないパワーがあって笑い所では素直に笑わせていただいた。

精神病院ということで過剰なキャラが出てくるのとかと思っていたが、キャラのインパクトという点では設定の似ている「サイボーグでも大丈夫」の方が強い。
だが本作は笑いもあるが、どちらかと言うと、リアリティを保っているということも大きいのだろう。アクの強さはあるものの、どれも現実の延長上にいる人物の心の病を描いている、と感じられる。
主人公の内田有紀は、望まずに精神病院に入った女性を好演している。ナチュラルな雰囲気があり、彼女の良さが引き出されている、と思う。もちろん蒼井優も、大竹しのぶも個性的で、存在感を放っていた。

物語は現実を意識した視線があることもあり、ラストでシリアスな展開に向かっている。
そこで描かれていたのは、シンプルに言うなら生きづらさだ。
主人公の女性は離婚しており、新しい恋人ともうまくいっておらず、堕胎の過去を引きずっている。そして元夫の死に捕らわれてしまい、せっかく入った仕事もうまくこなせない。多くのトラウマに絡め取られ、しがらみをうまくさばけず、器用に立ち回ることもできない。
「生きることは重い」というセリフがあったが、女の恋人は彼女の重さを引き受けらず、当人自身もその重さに耐えられなくなっている状況だ。

しかしどのような事情があろうと、人は生きざるをえないものだ。
生きることは重く、耐えられないこともあるかもしれない。そしてラストで示されたように、またクワイエットルームに逆戻りすることになるのかもしれない。
しかしそれでも人は外の世界に踏み出さねばならない。ラストシーンを見て、僕はそう感じた。
その希望とも悲壮とも違う、ふしぎな余韻が胸に残った。なかなか良質な作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


原作の感想
 松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』

出演者の関連作品感想
・内田有紀出演作
 「監督・ばんざい!」
・宮藤官九郎出演作
 「嫌われ松子の一生」
・蒼井優出演作
 「男たちの大和/YAMATO」
 「虹の女神 Rainbow Song」
 「ハチミツとクローバー」
 「フラガール」
・妻夫木聡出演作
 「憑神」
 「どろろ」

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『三つの棺』 ジョン・ディク... | トップ | 『遭難、』 本谷有希子 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画(か行)」カテゴリの最新記事